ストラスブールの駅に着いたのは、ちょうどお昼どき。手っ取り早く、駅近くの比較的大きめのレストランに入った。店の奥の階段のそば、一番端の小さなテーブルに案内される。
席につくとすぐ、痩せた、いかつい顔つきの中年女がやってきて、
「注文は?」
メニューを見せてくれと言うと、口をゆがめ、いかにも、『メニューだってさ、ふん』といわんばかりの口調で、
「ル・ムニュ!」
ほらよ、と持ってきたメニューには、魚の定食は見つからない。(ことわっておくが、私は肉が嫌い)魚料理は、と尋ねると、「ノン!」
早くしろよ、といわんばかりの目つきにあせりながら、食べられそうなものを探す。定食に、ソーセージの文字を見つけたので、これを、と言うとうなずき、
「フライドポテトはどうする、つけるの?」
「はい」
「飲み物は?」
「り、りんごジュースを」
矢継ぎ早のフランス語の質問に必死に答え、なんとか注文が終わって、ほっ。
しばらくして、りんごジュースの小瓶と、グラスが運ばれてきた。ついで、山盛りのフライドポテトの上にちょこんとのっかった、二本の細いソーセージが……。
その皿をテーブルの上にどんと置くと、おばさん、一応、「召し上がれ(ボン・アペティ)」
私はまじまじと皿をみつめた。
これだけ?
サラダとデザート付きの、定食を頼んだつもりだったんだけど。
フライドポテトをつけなければ、ソーセージが二本だけ、ころんと皿にのっかってきたのかしら?
あのいかついおばさんにそれ以上立ち向かう気力はなく、黙ってソーセージを食べ始める。回りの客に運ばれてくる料理のおいしそうなこと。
食べ始めていくらもたたないうちに、再びぎすぎす女がやってきた。なんだろう、と思うと、自分はこれから出かけるから、今、勘定を払えと言う。
他のウェイトレスと違って、そのおばさんは、腰にでっかい黒いがま口をぶら下げていた。ここの女主人なのかもしれない。彼女は、テーブルクロス代わりに敷いてある紙の上に、いきなりカカカと勘定を書き付けた。(※注)ばかにされたようで、私は思わずむっとする。ひょっとしたら、食い逃げされないために、先にお金を取っておこうと思われたんじゃなかろうか。
飲み物代合わせて、39.5フラン(約800円)。定食の値段よりは、当たり前だが、だいぶ安かった。言われたとおり、支払ったが、こっちはまだ食べてる最中だぜ。まるで、追い出さんばかりじゃない。感じ悪いったらない。落ち着いて食事を楽しむ気にもなれない。
私は、「歩き方」に投書してやるぞ、と思いながら店を出た。レシートをくれなかったため、もしかして出るとき二重請求されるんじゃないかと身構えていたが、さすがにそれはなかった。
※ 当時、私は知らなかったが、勘定書のかわりに、テーブルに書き付けるこのやり方は、普通にあるようだ。この旅の後、なにかの雑誌の写真で見た。
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